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シクリカル&高配当銘柄の代表格『小松製作所』

小松製作所は売上高3兆5,435億円、営業利益4,907億円(2022年度)を誇る世界第二位の建設機械メーカーです。世界市場に占めるシェアは15%を上回り、首位キャタピラーはもちろん、中国勢との競争も厳しいものの、コト【顧客プロセス全体の最適化】モノ【機械の自動化・自律化】の両面から顧客価値の最大化に取り組み、高い収益性を長年にわたり確保し続けています。

建設機械の市場シェア

出典:ディールラボ

小松製作所の事業内容

1.建設機械・車両

売上高の92%が建設機械・車両で、鉱山機械や林業機械も含まれます。油圧ショベル、ブルドーザー、ダンプトラックなどが主力製品で、鉱山向けのダンプトラックには重量が200トンを超えるものもあり、これは戦車の3~4倍に相当します。高い専門性と信頼性が求められ、参入障壁は高いと考えられます。

小松製作所の鉱山機械には石炭向けが比較的多く、長期的には石炭の需要が減少するおそれがありますが、金、鉄鉱石、銅、ニッケルなどのハードロック向けの鉱山機械の充実を急ぐなど抜かりはありません。電気を通しやすい銅、ステンレスやバッテリーに使われるニッケルは自動車などの電動化に伴い需要が増加すると予測されています。

小松製作所の事業別売上高
2.リテールファイナンス

建設機械は高額なため、購入資金を貸し付けることもあります。割合は小さいですが、建設機械を販売するために必要な事業で、2022年度の利益率は31.8%でした。

3.産業機械他

半導体産業向けの露光装置用光源やシリコンウエハー用ワイヤーソー、自動車産業向けの大型プレス機械などを製造・販売しています。建設機械の売上高と比べると小さいですが、2022年度の売上高は1,889億円、利益率は11.8%でした。

小松製作所の海外展開

小松製作所海外売上高比率は88%です。日本も含め、アメリカやヨーロッパなどの先進国での売上高が46%を占め、「伝統市場」と位置付けています。自動化・電動化機械などの高付加価値商品の導入、アフターサービスでの収益獲得、ソリューションビジネスへの移行など、総合的な価値を提供することでライバル企業との競争に勝ち抜く方針です。新興国には資源国も多く、「戦略市場」と位置付けています。鉱山機械などの収益性の高い製品で引き続きプレゼンスを確保しつつ、人口増加や都市化に伴い増大する建設需要を取り込むべく、各地域の特性に応じた戦略を展開しています。

小松製作所の地域別売上高

幅広い国や地域に擁する事業基盤を活かして、先進国では効率化や環境対策、新興国では資源開発や人口増加など、様々な需要を持続的な成長につなげる機会があります。また、取引先の多様性はリスクの分散にもつながります。製造業としては中国向けの売上高が少なく、昨今の低調な中国経済の影響は大きくありません。

小松製作所の業績推移

長期投資は10年単位で考えるため、過去の業績もそれなりに遡って確認する必要があります。小松製作所の業績推移を見ると、2008年のリーマンショック、2015年のチャイナショックと資源価格の下落、2020年のコロナショックと、不況の度に業績が落ち込んでいます。重要なのは業績の回復が早いことで、中長期的には業績は右肩上がりの傾向にあります。利益率は10%を上回ることが多く、機械業界では十分な水準です。資材価格の高騰分の転嫁にも成功しており、2022年度も増収増益でした。

小松製作所と売上高と利益率の推移

小松製作所は2008年に無人ダンプトラック運航システムAHS、2015年に建設現場の施工プロセスをデジタル技術で見える化するソリューション、2023年に電動化建設機械と、革新的な製品やサービスを次々と市場に投入してきました。建設機械は世界経済や資源価格、為替といった外部要因に左右されやすく、IT業界などとは異なり、飛躍的な成長は期待できない成熟産業です。ただ、2022年度の小松製作所の研究開発費は売上高の2.6%に相当する906億円にも達しており、他社に先駆けて顧客の課題を解決してきたことが着実な成長につながっています。

小松製作所が比較的安定して稼げている要因として、アフターマーケットの重要性もあげられます。建設機械は10~15年使用されるため、機械本体の販売後も部品の交換や保守・修繕の需要が安定的に生じるのです。機械本体の販売後は販売した機械の稼働状況を把握する「KOMATRAX」を活用することでアフターサービスを充実させており、部品・サービス事業の売上高は建設機械・車両事業の売上高全体の48%に達します。

小松製作所の売上高の詳細

小松製作所の売上高の詳細

小松製作所キャッシュフロー

「利益は意見、現金は事実」と言われるとおり、実際の現金の出入りを示すキャッシュフローは企業の経営状態を把握するうえで重要です。大企業であれば目先の資金繰りに窮することは考えにくく、事業の維持拡大にどの程度の投資を必要としているのか、損益計算書からは見えにくい投資キャッシュフローが特に重要な情報になります。営業キャッシュフローを稼げたとしても、実際に株主に還元できるのは投資キャッシュフローを差し引いたフリーキャッシュフローだからです。

小松製作所キャッシュフロー

小松製作所は年間3,000億円±1,000億円程度の営業キャッシュフローを稼ぐ力があると考えられますが、自社生産にこだわる小松製作所は稼いだ営業キャッシュフローのうち1,000億円以上を多くを工場などへの再投資に回さなくてはなりません。69もの生産拠点を世界中に分散させているため設備投資が嵩みますが、分散させた生産拠点を連携させることで災害や景気後退などの外部環境の変化に強い生産体制を構築しています。

2017年はアメリカのジョイ・グローバル社を3,000億円で買収したため、投資キャッシュフローが突出しています。超大型のダンプトラックやハードロックの坑内掘り機械に強いジョイ・グローバル社を取り込むことで、成長性と収益性が高い鉱山機械の品揃えを強化することが狙いでした。当時は資源価格が低迷していたため比較的安く買収でき、その後の業績を見ても買収は悪くなかったと評価できそうです。

小松製作所の株主還元

最終的に株主にとって大切なのは、株価上昇によるキャピタルゲインと、配当によるインカムゲインがどれだけ得られるかです。株価は基本的にはEPS(一株当たり利益)と連動し、分子である企業としての利益や配当総額が増えていなくても、分母である株式発行数を自社株買いによって減らすことで、EPSと配当は増やせます。

小松製作所の株価推移

小松製作所の株価推移

景気敏感株らしく小松製作所の株価のボラティリティ(変動の大きさ)は高いです。30~40%程度の下落は珍しくなく、リーマンショックの際には70%以上の暴落を経験しています。しかし、ボラティリティは割安価格での買いやすさにもつながるため、銘柄選びとタイミングを間違えなければ大きな利益を狙えます。高値を更新し続けるほどの成長力はないため、高値を追っているときは買わない方が堅実でしょう。

同じシクリカル銘柄でも海運株や鉄鋼株よりは安定しており、同様に景気感応度が高いながらも大崩れしにくい銘柄としてはタイヤメーカーのブリヂストンなどが挙げられます。どちらも優良企業ですが、個人的にはエンドユーザーとの直接的な接点を確保しやすい小松製作所に対し、より大きな投資妙味を感じています。

小松製作所のEPSと配当

EPSに応じて配当は変動していますが、減配は半額以内、翌年には減配前の水準まで増配していることが多いです。中長期的にはEPSと配当の水準は切り上がっています。

小松製作所の株主還元

自社株買いも含めた株主還元の状況を見ておきます。直近10年間のキャッシュフローと株主還元のバランスを見ると、調子が悪いときは無理して配当を支払わないこともあり、キャッシュの流出は抑えられています。ジョイ・グローバル社の巨額買収もあってか自社株買いも控えてきましたが、過去、2008年、2011年、2014年は300億円規模で実施しています。業績好調で現預金が3,000億円超まで積み上がっていることも考えると、株価下落のタイミングがあれば、相当な規模で実施するのではと期待しています。

小松製作所の財務基盤

小松製作所の資産を見ると、最も大きいのは流動資産で、流動資産のうち多くを受取手形及び売掛金棚卸資産が占めています。BtoBで単価の高い製品を取り扱い、販売してから現金が入ってくるまでに時間がかかるためです。

小松製作所の財務諸表

2022年度は棚卸資産が増加し、営業キャッシュフローの減少につながりました。2023年度も円安の影響と、鉱山機械の需要増加への対応のため棚卸資産が増加しています。

小松製作所の棚卸資産の推移

小松製作所棚卸資産の推移

小松製作所自己資本比率は50%を何とか上回る程度ですが、売上債権や在庫が大きくなりやすい業態であることを踏まえれば十分な水準です。ジョイ・グローバル社の買収後、長期債務は安定的に推移しており、財務状態を懸念する必要はないと考えます。

小松製作所の財務健全性

まとめ

建設機械に高い成長は期待できませんが、半永久的に安定した需要が見込めます。小松製作所の経営のクオリティは高く、実際の市場シェアも悪くありません。3~4%の配当利回りを享受しながら、株価が崩れた際に積極的に買い増していく銘柄としては優秀だと考えています。

小松製作所

小松製作所

※筆者は小松製作所の株式を300株保有しています。コロナショックのときに買いました。

※データは特に記載がなければ小松製作所のホームページから取得していますが、見解は筆者によるものです。あくまで参考程度にしてください。