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収益性と安全性に優れた電子部品メーカー『村田製作所』

村田製作所売上高1兆6,868億円、営業利益3,149億円(2022年度)であり、日本を代表する電子部品メーカーの一つです。電子部品は電気の備蓄、放出、変換、切替、接続などに欠かせないため、情報社会や通信技術のさらなる高度化に伴い、今後も旺盛な需要が期待できます。通信機器はもちろん、あらゆる産業で活躍していますが、近年は特に電装化が進む自動車向けの伸びが顕著です。

電子部品の用途別構成比(2022年)

電子部品の用途別構成比(2022年)

 

※出展:電子情報技術産業協会

日本の情報技術産業の国際競争力低下が目立つ中、電子部品メーカーは好調です。日系企業半導体市場に占める世界シェアが10%を下回る水準にまで低迷する中、日系電子部品メーカーの世界シェアは34%、生産額は10兆円を超えているのです。自動車メーカーなどに次ぎ、日本の基幹産業の一角を担っています。

電子情報産業の日系企業の生産額

電子情報産業の日系企業の生産額(2022年)

※出展:電子情報技術産業協会

村田製作所の事業内容

村田製作所の事業は3つのセグメントから構成されています。電子部品メーカーはニッチな領域で自社が得意とする技術に磨きをかけることで顧客からの信頼を勝ち取り、高い競争力を維持し続けてきました。世界シェアの高い製品を多数擁する村田製作所は培ってきた技術を活かしながら、より主体的かつ総合的な社会課題解決に取り組もうとしています。単なる部品メーカーの枠を超え、持続的な成長を目指しているのです。

コンデンサ、インダクタ、EMI除去フィルタなどを取り扱い、特にコンデンサ村田製作所の売上高全体の44%を占める主力製品です。電気を蓄えたり電流を整えたりする積層セラミックコンデンサは電子回路に不可欠で、村田製作所の世界シェアは4割に達します。高周波信号のやり取りに使用される高周波インダクタスマートフォンなどに組み込まれ、村田製作所の世界シェアは6割です。電子ノイズを取り除くEMI除去フィルタは電子回路の保護に使用され、村田製作所の世界シェアは4割です。

高周波モジュール、表面波フィルタ、リチウムイオン二次電池、センサなどを取り扱っています。高周波モジュールは通信に使用する高周波回路を小型のパッケージに集積した電子部品ユニットです。コンポーネント事業では基本となる個々の部品を手がけますが、バイス・モジュール事業では特定の用途のために組み合わせた複数の部品群も手がけています。必要な信号だけを取り出す表面波フィルタは高周波回路に欠かせない部品で、村田製作所の世界シェアは5割です。

  • その他

ヘルスケア機器、ソリューションビジネスなどを取り扱っています。5G が医療ネットワークや工場設備の予防保全、自動運転などに活用されようとする中、電子部品というハードウェアにとどまらずソフトウェアと組み合わせたソリューションとして提供することで顧客価値の最大化を目指しています。

村田製作所の売上高の内訳(2022年度)

村田製作所の売上高の内訳(2022年度)

モジュール事業は収益力が弱く、ソリューションビジネスは始まったばかりで、利益は従来のコンポーネント事業に依存しています。積層セラミックコンデンサをはじめ世界シェアの高い製品を複数抱えるコンポーネント事業の利益率は30%を上回る一方、競争の激しいバイス・モジュール事業の利益率は10%にさえ達しておらず、特に黒字化が遅れているリチウムイオン電池事業が足を引っ張っています。新規事業を育て上げ、ビジネスモデルの進化を確立することが課題です。

村田製作所の事業ごとの利益

村田製作所の事業ごとの利益

村田製作所の電子部品は通信機器向けが主力ですが、幅広い用途に使われています。5G、6Gと通信技術の革新が進み、あらゆるモノがデータを収集し、ネットワーク化していく未来を考えると、通信分野に強い村田製作所の事業機会は今後ますます広がると期待されます。電子情報技術産業協会によると、CPS(サイバーフィジカルシステム)/IoT市場の年平均成長率は6.7%と推計されています。

村田製作所の用途別売上高(2022年度)

村田製作所の用途別売上高(2022年度)

村田製作所通信機器や自動車を基盤領域環境やヘルスケアを挑戦領域と位置付け、強みを発揮できる新しい需要を積極的に掘り起こそうとしています。ビジネスモデルの高度化と合わせて、事業領域の拡大にも成長の活路を見出しているのです。

村田製作所の海外展開

村田製作所海外売上高比率は90%を超えており、特に中華圏の売上高が50%に達しています。ただ、スマートフォンなどの工場が中華圏に多いためで、最終的な需要が中華圏に集中しているわけではありません。各メーカーがサプライチェーンを分散させていくのに伴い、村田製作所の取引先も多様化していくと考えられます。

村田製作所の地域別売上高(2022年度)

村田製作所の地域別売上高(2022年度)

海外売上高比率が極めて高い一方、国内生産比率は65%と高く、工場を集中させることで効率化を図るとともに、先端技術の流出を防ごうとしています。

村田製作所の業績推移

長期投資は10年単位で考えるため、過去の業績もそれなりに遡って確認する必要があります。村田製作所売上高は20年間で4倍に成長し、利益率も20%前後という高い水準で推移しています。日本には京セラ、ニデック、TDKといった有力な電子部品メーカーがいくつもあり、それぞれ強みがあるため単純な比較はできませんが、利益率では村田製作所が群を抜いています

製造業であり景気変動の影響は相応に受けやすく、2022年度はコロナ禍の特需の反動もあってスマートフォンやPCなどの民生品向けの需要が低迷し、2023年度に入っても回復が遅れています。成長が踊り場に差し掛かっていると言えそうです。円安は追い風ですが、操業度の低下に加え、原材料費、人件費、エネルギー価格などあらゆる製造コストの上昇が逆風となり、足元の利益率が低下しています。

村田製作所と売上高と利益率の推移

村田製作所と売上高と利益率の推移

スマートフォンの急速な普及が村田製作所の成長を支えてきたため、市場が成熟し、技術がコモディティ化してくると村田製作所の成長や収益力が損なわれるおそれがあります。主力の通信機器向けで競争力を維持し続けることはもちろん、EV化などに伴う新たな需要を取り込んでいけるかが今後の分水嶺になりそうです。自動車向けの電子部品は高電圧かつ高温の環境に耐える必要があり、不具合は人命に直結します。より高い信頼性が求められるため、村田製作所が強みとする開発力と品質を活かせそうです。競争と変化が激しいエレクトロニクス業界で勝ち続けるため、2022年度は売上高の7.4%に相当する1,242億円を研究開発費として支出しています。

村田製作所キャッシュフロー

「利益は意見、現金は事実」と言われるとおり、実際の現金の出入りを示すキャッシュフローは企業の経営状態を把握するうえで重要です。大企業であれば目先の資金繰りに窮することは考えにくく、事業の維持拡大にどの程度の投資を必要としているのか、損益計算書からは見えにくい投資キャッシュフローが特に重要な情報になります。営業キャッシュフローを稼いだとしても、実際に株主に還元できるのは投資キャッシュフローを差し引いたフリーキャッシュフローだからです。

村田製作所のキャッシュフロー

村田製作所キャッシュフロー

2013年頃から村田製作所が稼ぐ営業キャッシュフローは大幅に増加し、2018年度からさらに伸び、2021年度は4,000億円を突破しました。ただ、材料から製品まで垂直統合型の一貫生産体制を自社で構築しているため、売上を増やすには工場などへの追加の設備投資が必要です。品質の高い製品を開発し供給し続けるための必要経費ですが、有形固定資産の取得額は最大で年間3,000億円超、2022年度も1,900億円を超えています。直近10年間で稼いだ2兆8,688億円の営業キャッシュフローうち66.9%に相当する1兆9,193億円が投資キャッシュフローとして流出しており、フリーキャッシュフローは必ずしも潤沢ではありません。

事業領域を拡大し、技術的な優位性を保ち続けるため、挑戦領域の開拓と基盤領域の強化の両面でM&Aを活用しています。前者では、2017年のソニーリチウムイオン電池事業の買収(175億円)やバイオス・メディカル社の買収(114億円)があげられます。バイオス・メディカル社はバイタル情報を計測するセンサと、それをモニタリングするソフトウェアやクラウドサービスを開発・提供するアメリカのベンチャー企業でした。後者では、2022年の独自の通信フィルタ技術を持つレゾナンス社の買収(336億円)などがあげられます。

村田製作所の株主還元

最終的に株主にとって大切なのは、株価上昇によるキャピタルゲインと、配当によるインカムゲインがどれだけ得られるかです。株価は基本的にはEPS(一株当たり利益)と連動し、分子である企業としての利益や配当総額が増えていなくても、分母である株式発行数を自社株買いによって減らすことで、EPSと配当は増やせます。

村田製作所の株価の推移

村田製作所の株価の推移

比較的長い停滞期間(2007~2013年、2015~2020年)がありますが、20年間で株価は5倍程度に上昇しました。今後の成長機会も大きく、グロース株と捉えてよいでしょう。既に大型株で、PERは20倍以上と十分に評価されているため、爆発的な伸びは期待できないかもしれませんが、事業基盤が厚く、値動きは比較的安定しています。

村田製作所のEPSと配当の推移

村田製作所のEPSと配当の推移

リーマンショックにおいても最終黒字を維持し、3割程度の減配でとどめました。翌年からは元の配当水準に戻し、4年後からは増配を開始しています。連続増配年数は10年に達し、配当性向も3割程度と無理がありません。株主還元としては増配を重視し、配当の基準としてはDOE(株主資本配当率)や内部留保も考慮しています。株主資本は純利益に比べると変動が小さく、村田製作所の利益剰余金は2兆円を超えていますので、減配リスクは低いです。ただ、増配ペースは成長戦略の成否に懸かっています。現在の配当利回りは1.5~2%程度で、グロース株としては高めですが、それなりの成長を織り込んでおり、期待に応えられなければ株価が崩れることには注意が必要です。

村田製作所の株主還元

村田製作所の株主還元

直近10年間のキャッシュフローと株主還元のバランスを見ると、2008年以前は毎年のように自社株買いを行っていましたが、2009年以降はあまり行っていません。株主還元としては自社株買いより配当を重視しています。資本効率の改善を目的に、2022年は800億円規模で実施しましたが、大規模な成長投資の必要性を考えるとさほど余力はなさそうです。高配当や派手な自社株買いではなく、持続的な成長に伴う株価の上昇と増配に期待していく銘柄と言えるでしょう。

村田製作所の財務基盤

村田製作所は自社工場を構えるため、有形固定資産が比較的大きくなっています。ハイテク産業であり高額な機械装置や工具器具備品も多いと考えられます。

村田製作所のバランスシート

村田製作所のバランスシート

積極的な設備投資に伴い、有形固定資産は10年間で3倍以上に膨らみました。主力の積層セラミックコンデンサに関しては年間1兆個の生産能力を有し、さらに毎年10%以上増強するという方針です。2023年も福井県に研究開発センター、島根県、フィリピン、中国に生産拠点を設けると発表しました。自社工場を構える村田製作所にとって設備投資は成長に欠かせませんが、一時的に減価償却費等の負担が増すことになります。

村田製作所の有形固定資産の推移

村田製作所の有形固定資産の推移

村田製作所自己資本比率は80%を超え、社債や長期債務は多くても1500億円と手元資金の3,000億円を大きく下回る水準であり、実質的な無借金経営です。設備投資は自己資金で賄われており、現在の財務状態は盤石です。資本効率も重要ですが、変化の激しい業界であるため、あまりレバレッジをかけ過ぎない方がよいと考えています。

村田製作所の長期債務の推移

村田製作所の長期債務の推移

まとめ

成長産業のエレクトロニクス業界には一定の資金を投じておきたいところ、競争と変化が激しく、製品やサービスの優位性も見えづらく、個別銘柄を選ぶのには苦労します。村田製作所は世界シェア、利益率、売上高成長率、安定性、自己資本比率のいずれも優秀であり、成長戦略も合理的だと考えています。

村田製作所

村田製作所

※筆者は村田製作所の株式を300株保有しています。

※データは特に記載がなければ村田製作所のホームページから取得していますが、見解は筆者によるものです。あくまで参考程度にしてください。